糖尿病とは

糖尿病は、体内で血糖値を正常に保つ機能がうまく働かなくなることにより、慢性的に高血糖状態が続く病気です。血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖の濃度のことを指し、これが高い状態が続くと全身の血管や神経にダメージを与え、さまざまな合併症を引き起こす原因になります。
本来、私たちが食事を摂ると、炭水化物はブドウ糖に分解されて血液中に吸収されます。その際、膵臓から分泌される「インスリン」というホルモンが血糖を細胞内に取り込ませ、エネルギーとして利用できるようにしています。しかし糖尿病では、このインスリンの分泌が少なかったり、分泌されていても十分に機能しない状態(インスリン抵抗性)が起こってしまいます。その結果、血糖が細胞に取り込まれず血液中に残り続けることで、高血糖状態が慢性化します。
糖尿病には進行性の側面もあり、症状が出にくい初期段階から、重篤な合併症が発生する末期段階まで幅広い状態があります。したがって、「自覚症状がないから大丈夫」と思い込むのではなく、血糖値を定期的にチェックし、早期に対処することが非常に重要です。
血糖値の正常範囲と異常値の基準
糖尿病の診断において最も重要な指標となるのが「空腹時血糖値」と「HbA1c値(ヘモグロビンエーワンシー)」です。空腹時血糖値は、食事を8時間以上摂っていない状態で測る血糖の値で、短期的な血糖の状態を反映します。一方、HbA1cは赤血球内のヘモグロビンにブドウ糖がどれほど結びついているかを示すもので、過去1〜2か月間の平均的な血糖値を推定できます。
指標 |
正常範囲 |
境界型(予備軍) |
糖尿病型 |
---|---|---|---|
空腹時血糖値 |
70~109 mg/dL |
110~125 mg/dL |
126 mg/dL以上 |
HbA1c値(NGSP) |
4.6~6.0% |
6.1~6.4% |
6.5%以上 |
この基準を基に、医師は糖尿病の診断を行います。ただし、1回の測定結果だけで診断されるわけではなく、複数回の測定や症状の有無を加味したうえで判断されることが一般的です。
糖尿病の症状
糖尿病は初期段階では自覚症状が非常に乏しく、静かに進行していくことが多いため「サイレントキラー」とも呼ばれます。そのため、症状が現れたときにはすでに進行しているケースも珍しくありません。
最初に気づかれることが多いのは「のどの渇き」と「頻尿」です。これは、体が余分な糖を尿として排出しようとするために水分を必要とし、結果として排尿回数が増えるという反応によるものです。また、インスリンの働きが不十分なために、体内の細胞がエネルギー不足に陥り、倦怠感や異常な空腹感、さらには急激な体重減少を引き起こすこともあります。
進行すると、目のかすみや視力の低下、手足のしびれといった神経障害の症状も現れます。血糖値が高い状態が長期間続くと、細い血管がダメージを受け、目(糖尿病網膜症)、腎臓(糖尿病腎症)、神経(糖尿病神経障害)に深刻な合併症が生じるリスクが高まります。特に目や腎臓への影響は重篤で、失明や人工透析が必要となる場合もあるため、見過ごすことはできません。
糖尿病の症状は一見、日常の疲れや加齢によるものと勘違いされがちです。しかし、そうした症状が長く続く、あるいは複数重なるようであれば、早めの医療機関受診が推奨されます。
糖尿病の原因
糖尿病の原因は、1型糖尿病と2型糖尿病とで異なりますが、いずれも「インスリンの分泌量や働きの異常」が根本にあります。
1型糖尿病は、自己免疫疾患により膵臓のβ細胞が破壊されてしまい、インスリンを分泌できなくなることで発症します。これは小児期や若年層に多く見られ、遺伝的要因やウイルス感染が引き金となる場合があるとされていますが、はっきりとした発症メカニズムはまだ完全には解明されていません。
一方、2型糖尿病は、現代人に多く見られるタイプであり、複数の生活習慣や体質的な要因が組み合わさることで発症します。最大のリスク因子は肥満です。特に、内臓脂肪型の肥満はインスリンの働きを妨げ、血糖がうまくコントロールされなくなります。加えて、食生活の乱れ(高カロリー・高糖質・高脂肪)、慢性的な運動不足、ストレス、過労、そして睡眠不足などが発症を助長します。
また、糖尿病は遺伝的要素も強く、親や兄弟に糖尿病患者がいる場合、自身の発症リスクも高まります。これらの要因が複雑に絡み合い、長期的に膵臓のインスリン分泌が追いつかなくなった結果、糖尿病が発症するのです。
したがって、糖尿病の予防や進行の抑制には、単一の対策ではなく、複数の生活習慣を見直すことが求められます。
糖尿病の診断方法
糖尿病の診断は、血糖値とHbA1cという2つの数値を基準に行われます。加えて、必要に応じて「ブドウ糖負荷試験(OGTT)」という検査を行うことで、より正確な診断が可能となります。
まず、空腹時血糖値が126 mg/dL以上、または随時血糖値が200 mg/dL以上である場合、糖尿病が強く疑われます。ただし、1回の検査結果だけでは断定されず、複数回の測定で同様の結果が得られることが必要です。
次に、HbA1c(ヘモグロビンA1c)は、過去1〜2か月の平均的な血糖状態を反映するため、単なる一時的な血糖の上昇ではなく、慢性的な高血糖状態かどうかを判断するのに役立ちます。HbA1cが6.5%以上であれば糖尿病の可能性が高くなります。
より詳細に調べる際には、ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行います。これは、空腹時にブドウ糖を含んだ飲料を飲み、飲用後30分、1時間、2時間後の血糖の変化を測定することで、体がどの程度ブドウ糖を処理できているかを確認するものです。この検査により、「境界型糖尿病」や「妊娠糖尿病」の診断も行えます。
近年では、家庭用の血糖測定器や持続血糖モニタリング(CGM)といった技術の進歩により、より手軽に血糖状態をチェックできるようになってきていますが、自己診断には限界があるため、医師による総合的な判断が欠かせません。
糖尿病の対処法

糖尿病の治療は、大きく分けて「生活習慣の改善」「薬物療法」「インスリン療法」の3本柱で構成されています。治療の目的は、血糖値を適正に保つことで合併症の進行を防ぎ、健康的な生活を維持することにあります。
まず、治療の基本となるのが食事療法です。これは「糖質のコントロール」と「エネルギー摂取のバランス」が重要です。カロリー制限だけでなく、栄養の質にも気を配り、野菜や食物繊維を多く含む食材を中心とした食事を心がける必要があります。また、食事のタイミングや食べる順番(ベジファースト)も血糖の急上昇を防ぐうえで有効です。
次に、運動療法も血糖管理に欠かせません。有酸素運動(ウォーキング、ジョギングなど)を中心に、週150分以上の定期的な運動が推奨されています。筋力トレーニングなどの無酸素運動を組み合わせることで、よりインスリン感受性が高まり、血糖のコントロールがしやすくなります。
これらの生活改善だけでは血糖値を十分に下げられない場合、薬物療法が導入されます。2型糖尿病の場合、血糖降下薬(例:メトホルミン、DPP-4阻害薬など)を服用し、インスリンの分泌を助けたり、糖の吸収や排出をコントロールします。
1型糖尿病や重度の2型糖尿病では、インスリン注射が必要不可欠です。近年は、持続型インスリンポンプやスマートインスリンなど、技術の進歩により治療の選択肢が広がってきました。
糖尿病は一度発症すると一生付き合っていく病気ですが、治療の進歩により、適切な管理ができれば、合併症を避けつつ健康的な日常生活を送ることは十分可能です。医師・栄養士・運動指導士など、多職種によるチーム医療のもと、自分に合った治療方針を見つけることが大切です。
糖尿病でお悩みの方へ
糖尿病という診断を受けたとき、多くの方が「これからの人生はどうなるのだろう」と不安に感じるかもしれません。食事の制限、薬の服用、合併症への恐れなど、その瞬間から生活が大きく変わるような感覚に襲われるのは自然なことです。しかしながら、糖尿病は「適切に管理することでコントロール可能な病気」であり、正しい知識と前向きな姿勢を持てば、これまでと同じように、あるいはそれ以上に充実した生活を送ることも十分可能です。
当院では、専門の医師があらゆる観点から治療・その後の生活をフォローいたします。お気軽にご相談下さい。